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黙示録17章9節:七つの「丘」は誤訳

このエントリーでは聖書の日本語訳は新共同訳『聖書』(日本聖書協会)によります。ギリシア語はラテン文字転写(ορη → orē、βουνοι → bounoi)して表記します。また新共同訳の旧約聖書部分の底本は「ビブリア・ヘブライカ・シュトットガルテンシア」(ドイツ聖書協会)であり、日本語訳は基本的に底本のヘブライ語テキストからの翻訳とされています。

◯ヨハネの黙示録17章9節
「七つの頭とは、この女が座っている七つの丘のことである」
※「丘」に対応する原文のギリシア語はorē。

◯マタイによる福音書18章12節
「九十九匹を山に残しておいて」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。

◯マタイによる福音書24章16節
「ユダヤにいる人々は山に逃げなさい」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。

◯マルコによる福音書13章14節
「ユダヤにいる人々は山に逃げなさい」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。

◯ルカによる福音書21章21節
「ユダヤにいる人々は山に逃げなさい」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。

◯コリントの信徒への手紙一13章2節
「たとえ、山を動かすほどの完全な信仰を持っていようとも」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。

◯ヨハネの黙示録16章20節
「山々も消えうせた」
※「山々」に対応する原文のギリシア語はorē。

◯創世記7章19節
「およそ天の下にあるすべての高い山はすべて覆われた」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯創世記7章20節
「山々を覆った」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯創世記8章4節
「箱舟はアララト山の上に止まった」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯民数記33章47節
「ネボの手前にあるアバリム山に宿営し」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯士師記5章5節
「山々は、シナイにいます神、主の御前に」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯士師記11章37節
「わたしは友達と共に出かけて山々をさまよい」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯士師記11章38節
「山々で、処女のままであることを泣き悲しんだ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯サムエル記上31章8節
「サウルとその三人の息子がギルボア山上に倒れているのを見つけた」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯サムエル記下1章21節
「ギルボアの山々よ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯列王記上19章11節
「山を裂き、岩を砕いた」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯ヨブ記9章5節
「神は山をも移される」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯ヨブ記28章9節
「山を基から掘り返す」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯ヨブ記39章8節
「餌を求めて山々を駆け巡り」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編11(10)編1節
「鳥のように山へ逃れよ」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編36(35)編7節
「恵みの御業は神の山々のよう」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編46(45)編3節
「山々が揺らいで海の中に移るとも」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編46(45)編4節
「その高ぶるさまに山々が震えるとも」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編65(64)編7節
「御力をもって山々を固く据え」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編80(79)編11節
「その陰は山々を覆い」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編83(82)編15節
「炎が山々をなめるように」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編90(89)編2節
「山々が生まれる前から」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編98(97)編8節
「山々よ、共に喜び歌え」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編104(103)編8節
「水は山々を上り」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編104(103)編13節
「主は天上の宮から山々に水を注ぎ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編104(103)編18節
「高い山々は野山羊のため」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編121(120)編1節
「目を上げて、わたしは山々を仰ぐ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編125(124)編2節
「山々はエルサレムを囲み 主は御自分の民を囲んでいてくださる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編133(132)編3節
「シオンの山々に滴り落ちる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯雅歌2章17節
「深い山へ帰って来てください」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯雅歌8章14節
「香り草の山々へ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書5章25節
「山々は震え」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書14章13節
「神々の集う北の果ての山に座し」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書22章5節
「山に向かって叫ぶ声がする」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書34章3節
「山々はその血によって溶ける」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書40章12節
「山々を秤にかけ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書45章2節
「山々を平らにし」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書63章19節
「御前に山々が揺れ動くように」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯イザヤ書64章2節
「あなたの御前に山々は揺れ動く」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エレミヤ書9章9(10)節
「山々で、悲しみ嘆く声をあげ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エレミヤ書13章16節
「足が暗闇の山でつまずかぬうちに」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書19章9節
「二度とその声が、イスラエルの山々に」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書32章5節
「わたしはお前の肉を山の上に捨て」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書33章28節
「イスラエルの山々は荒れ果て」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書34章13節
「わたしはイスラエルの山々、谷間、また居住地で彼らを養う」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書35章12節
「お前はイスラエルの山々について言った」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書36章1節
「あなたはイスラエルの山々に預言して言いなさい」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書38章20節
「山々は裂け、崖は崩れ、すべての城壁は地に倒れる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書39章2節
「イスラエルの山々に来させる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書39章4節
「イスラエルの山の上に倒れる」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯エゼキエル書39章17節
「それはイスラエルの山々の上での大いなる犠牲である」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯ヨエル書2章2節
「山々に広がる曙の光のように襲ってくる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯ミカ書1章4節
「山々はその足もとに溶け」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯ゼカリヤ書6章1節
「その山は青銅の山であった」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。

◯詩編114(113)編4節
「山々は雄羊のように 丘は群れの羊のように」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯詩編114(113)編6節
「山々よ、雄羊のように 丘よ、群れの羊のように」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯ヨエル書4(3)章18節
「山々にはぶどう酒が滴り もろもろの丘には乳が流れ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯アモス書9章13節
「山々はぶどうの汁を滴らせ すべての丘は溶けて流れる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯ナホム書1章5節
「山々は主の御前に震え もろもろの丘は溶ける」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯ハバクク書3章6節
「とこしえの山々は砕かれ 永遠の丘は沈む」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯詩編72(71)編3節
「山々が民に平和をもたらし 丘が恵みをもたらし」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯詩編148編9節
「山々よ、すべての丘よ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯イザヤ書54章10節
「山が移り、丘が揺らぐこともあろう」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯イザヤ書55章12節
「山と丘はあなたたちを迎え」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯詩編65(64)編13節
「どの丘も喜びを帯とし」
※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。

◯ヨハネの黙示録17章9節(再掲)
「七つの頭とは、この女が座っている七つの丘のことである」
※「丘」に対応する原文のギリシア語はorē。

【考察】

詩編114(113)編4節やイザヤ書54章10節などのギリシア語七十人訳を踏まえて、原文のギリシア語(orē)を厳密に解釈するならば、ヨハネの黙示録17章9節の「七つの丘」(新共同訳及びフランシスコ会訳)は、むしろ「七つの山」または「七つの山々」などと表現した方が妥当であると考えられる。

実際、バルバロ訳及びラゲ訳などの他の日本語訳聖書では、「七つの山」と訳されている。

ちなみにラテン語ヴルガタ訳では、黙示録17章9節で用いられる語はmontesであり、このmontes(monsの格変化した形)は、やはり「山」を意味するラテン語である。

「丘」を意味するラテン語はcollisであって、montesに対応した格変化形ではcollesとなる。

一方、いわゆる「マラキの予言」として流布されている文書の中に登場する、「七つの丘」という表現における「丘」に対応するラテン語はcollisであり、ヴルガタ訳黙示録17章9節で用いられているラテン語がmontes(monsの格変化形)であることと比較すると、黙示録17章9節の啓示と「マラキの予言」とは実は一致していないことが明らかである。

いわゆる「マラキの予言」では「七つの丘」が、ſepticollis(septicollis)というラテン語で表現され、その一方で、ヴルガタ訳の黙示録17章9節にあるラテン語表現は、”septem montes”である。

つまり、実際に用いられているラテン語の表現を調べることによって、「マラキの予言」なる文書の記述を黙示録17章9節の啓示と関連づけることは不可能であることが、明らかになる。

黙示録17章9節はあくまでも「七つの山」について語っているのであり、「マラキの予言」の中の「七つの丘」とは、もとより無関係である。

なお福音書でも例えば次のような箇所で、「山」と「丘」とは原文のギリシア語はもとよりラテン語ヴルガタ訳でも、歴然と区別されている。

◯ルカによる福音書3章5節
「谷はすべて埋められ、山と丘はみな低くされる」
※「山」に対応する原文のギリシア語はoros(ορος)。
 ヴルガタ訳のラテン語はmons。
※※「丘」に対応する原文のギリシア語はbounos(βουνος)。
  ヴルガタ訳のラテン語はcollis。

◯ルカによる福音書23章30節
「人々は山に向かっては、『我々の上に崩れ落ちてくれ』と言い、丘に向かっては、『我々を覆ってくれ』と言い始める」
※「山」に対応する原文のギリシア語はoresin(ορεσιν)。
 ヴルガタ訳のラテン語はmontibus(monsの格変化形)。
※※「丘」に対応する原文のギリシア語はbounois(βουνοῖς)。
  ヴルガタ訳のラテン語はcollibus(collisの格変化形)。

重ねて強調しておくが、黙示録17章9節が言及しているのはあくまでも「七つの山」であって、そこでは「七つの丘」とは異なる表現が用いられているのである。この両者は、基本的には別物と考えるべきであろう。

〔注〕別エントリー「七つの山々の都エルサレム」も参照のこと。
http://josephology.me/app-def/S-102/wordpress/archives/854