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七つの山々の都エルサレム

以下、聖書の日本語訳は新共同訳『聖書』(日本聖書協会)によります。またギリシア語はラテン文字転写(ορη → orē、βουνοι → bounoi)して表記します。新共同訳の旧約聖書部分の底本は「ビブリア・ヘブライカ・シュトットガルテンシア」(ドイツ聖書協会)であり、日本語訳は基本的に底本のヘブライ語テキストからの翻訳とされています。

◯ヨハネの黙示録17章9節
「七つの頭とは、この女が座っている七つの丘のことである」
※「丘」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯マタイによる福音書24章16節
「ユダヤにいる人々は山に逃げなさい」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯マルコによる福音書13章14節
「ユダヤにいる人々は山に逃げなさい」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯ルカによる福音書21章21節
「ユダヤにいる人々は山に逃げなさい」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯コリントの信徒への手紙一13章2節
「たとえ、山を動かすほどの完全な信仰を持っていようとも」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯ヨハネの黙示録16章20節
「山々も消えうせた」
※「山々」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯創世記7章19節
「およそ天の下にあるすべての高い山はすべて覆われた」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯民数記33章47節
「ネボの手前にあるアバリム山に宿営し」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯士師記5章5節
「山々は、シナイにいます神、主の御前に」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯士師記11章37節
「わたしは友達と共に出かけて山々をさまよい」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯サムエル記下1章21節
「ギルボアの山々よ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯ヨブ記9章5節
「神は山をも移される」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯ヨブ記28章9節
「山を基から掘り返す」
※「山」に対応する原文のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯ヨブ記39章8節
「餌を求めて山々を駆け巡り」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編36(35)編7節
「恵みの御業は神の山々のよう」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編46(45)編3節
「山々が揺らいで海の中に移るとも」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編80(79)編11節
「その陰は山々を覆い」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編83(82)編15節
「炎が山々をなめるように」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編90(89)編2節
「山々が生まれる前から」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編98(97)編8節
「山々よ、共に喜び歌え」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編104(103)編8節
「水は山々を上り」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編104(103)編13節
「主は天上の宮から山々に水を注ぎ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編104(103)編18節
「高い山々は野山羊のため」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編121(120)編1節
「目を上げて、わたしは山々を仰ぐ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編125(124)編2節
「山々はエルサレムを囲み 主は御自分の民を囲んでいてくださる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯イザヤ書5章25節
「山々は震え」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯イザヤ書34章3節
「山々はその血によって溶ける」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エレミヤ書9章9(10)節
「山々で、悲しみ嘆く声をあげ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エゼキエル書19章9節
「二度とその声が、イスラエルの山々に」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エゼキエル書32章5節
「わたしはお前の肉を山の上に捨て」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エゼキエル書33章28節
「イスラエルの山々は荒れ果て」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エゼキエル書38章20節
「山々は裂け、崖は崩れ、すべての城壁は地に倒れる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エゼキエル書39章2節
「イスラエルの山々に来させる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エゼキエル書39章4節
「イスラエルの山の上に倒れる」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯エゼキエル書39章17節
「それはイスラエルの山々の上での大いなる犠牲である」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯ヨエル書2章2節
「山々に広がる曙の光のように襲ってくる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯ミカ書1章4節
「山々はその足もとに溶け」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。

◯詩編65(64)編13節
「どの丘も喜びを帯とし」
※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯詩編114(113)編4節
「山々は雄羊のように 丘は群れの羊のように」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯詩編114(113)編6節
「山々よ、雄羊のように 丘よ、群れの羊のように」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯ヨエル書4(3)章18節
「山々にはぶどう酒が滴り もろもろの丘には乳が流れ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯アモス書9章13節
「山々はぶどうの汁を滴らせ すべての丘は溶けて流れる」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯ナホム書1章5節
「山々は主の御前に震え もろもろの丘は溶ける」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯ハバクク書3章6節
「とこしえの山々は砕かれ 永遠の丘は沈む」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯詩編72(71)編3節
「山々が民に平和をもたらし 丘が恵みをもたらし」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯詩編148編9節
「山々よ、すべての丘よ」
※「山々」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯イザヤ書54章10節
「山が移り、丘が揺らぐこともあろう」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯イザヤ書55章12節
「山と丘はあなたたちを迎え」
※「山」に対応する七十人訳のギリシア語はorē。ヴルガタ訳のラテン語はmontes。
※※「丘」に対応する七十人訳のギリシア語はbounoi。ヴルガタ訳のラテン語はcolles。

◯エズラ記(ラテン語)2章10節、13節、19節
「わたしの民に告げよ。わたしはイスラエルに与えるはずであったエルサレムの王国を、彼らに与える」
「お前たちは行って王国を受けよ」
「王国は既に、お前たちのために用意されている」
「ばらとゆりの咲く七つの大きな山々を、お前のために用意した」
※「山々」に対応するヴルガタ訳のラテン語はmontes。

(注)エズラ記(ラテン語)はカトリック教会においてはアポクリファとされている。

【解説】

詩編125(124)編2節からは、古代のエルサレムが山々に囲まれ(守られ)ている都だったことが理解できるが、エズラ記(ラテン語)2章19節では、その山々の数が七つであったことが示唆されている。
つまり、ヨハネの黙示録が書かれる以前のユダヤ世界において、「七つの山々の都エルサレム」という認識が既に存在していたことが、これらの記述から明らかになる。

また詩編114(113)編4節やイザヤ書54章10節を踏まえて、原文のギリシア語(orē)とヴルガタ訳のラテン語(montes)を厳密に解釈するならば、ヨハネの黙示録17章9節の「七つの丘」(新共同訳及びフランシスコ会訳)は、むしろ「七つの山々」または「七つの山」などと表現した方が妥当であると考えられる。
実際この箇所は、バルバロ訳及びラゲ訳では「七つの山」と訳されている。

以上から、紀元七〇年に滅亡した古代のエルサレムが黙示録17章9節の「この女(=大淫婦)」の有力な候補となり得ることが確認される。

ヨハネの黙示録16章20節「山々も消えうせた」の象徴する意味合いは、詩編125(124)編2節「山々はエルサレムを囲み 主は御自分の民を囲んでいてくださる」を念頭に置くことで、明らかになる。すなわち、その「大きな都」(黙示録16章19節)がそれまで特権的に享受して来た神からの庇護が、まさにその時点で失われてしまったことが、暗示されているのである。

伝統的なラテン語ヴルガタ訳では、黙示録17章9節で用いられる語はmontesであり、このmontes(monsの格変化した形)は、「山」を意味するラテン語である。

「丘」を意味するラテン語はcollisであって、montesに対応した格変化形ではcollesとなる。

一方、いわゆる「マラキの予言」として流布されている文書の中に登場する、「七つの丘」という表現における「丘」に対応するラテン語はcollisであり、ヴルガタ訳黙示録17章9節で用いられているラテン語がmontes(monsの格変化形)であることと比較すると、黙示録17章9節の啓示と「マラキの予言」とは実は一致していないことが明らかである。

いわゆる「マラキの予言」では「七つの丘」が、ſepticollis(septicollis)というラテン語で表現され、その一方で、ヴルガタ訳の黙示録17章9節にあるラテン語表現は、”septem montes”である。

旧約聖書でも上に列挙した通り、詩篇・ヨエル書・アモス書・ナホム書・ハバクク書そしてイザヤ書の各箇所で、ギリシア語七十人訳においてもラテン語ヴルガタ訳においても、「山」と「丘」とは明確に区別されている。

なお福音書でも例えば次のような箇所で、「山」と「丘」とは原文のギリシア語はもとよりラテン語ヴルガタ訳でも歴然と区別されている。

◯ルカによる福音書3章5節
「谷はすべて埋められ、山と丘はみな低くされる」
※「山」に対応する原文のギリシア語はoros(ορος)。
 ヴルガタ訳のラテン語はmons。
※※「丘」に対応する原文のギリシア語はbounos(βουνος)。
  ヴルガタ訳のラテン語はcollis。

◯ルカによる福音書23章30節
「人々は山に向かっては、『我々の上に崩れ落ちてくれ』と言い、丘に向かっては、『我々を覆ってくれ』と言い始める」
※「山」に対応する原文のギリシア語はoresin(ορεσιν)。
 ヴルガタ訳のラテン語はmontibus(monsの格変化形)。
※※「丘」に対応する原文のギリシア語はbounois(βουνοις)。
  ヴルガタ訳のラテン語はcollibus(collisの格変化形)。

(注)別エントリー「『携挙』:ギリシア語聖書本文で徹底検証【再投稿】」も参照のこと。
http://josephology.me/app-def/S-102/wordpress/archives/7753