聖書中の洗礼を受けた貴人

【問】新約聖書中で洗礼を受けた人たちで身分の高さが際立つ人は誰?
【答】使徒言行録8章で助祭フィリポから洗礼を受けた、エチオピアの高官ではないでしょうか。彼はエルサレムへの往復に馬車を使用しましたが、古代の馬車はおもに戦車として用いられ、平時の使用は貴人や一部有力者に限られました。

【問】同じ道を聖家族も通りましたか?
【答】およそ四十年ほど前、エジプトへの逃避の際に、幼子イエスと母マリアはろばに乗り、その手綱を養父ヨセフが握っていました。エチオピアの高官が恵まれた立場にあったことは確かですがユダヤからエチオピアは相当な長旅で、彼にはまた別の苦労がありました。

【問】確かにヨセフは妊娠中のマリアに辛く当たることがなかったにせよ、よほど彼は優柔不断で気が弱かっただけでは?
【答】全く違います。妻子を連れてエジプトへ逃げるように夢で天使に指示された後、彼の決断と行動は迅速で「自分はガリラヤ人でエジプトを知らない」などと妻に愚痴りませんでした。

【問】古代のイスラエルからエジプトまでの治安は?
【答】当時に限らず、いつの世もパレスチナからエジプトまでの経路は治安の悪い地域として著名で、優柔不断で気が弱い臆病者が妻と乳飲み子を連れて旅することなど、全く不可能です。預言者エレミヤの時と異なり聖家族は三人だけで行動していました。

福音書の時代にエルサレムからエジプトに逃避する場合、途中かつてのペリシテの町ガザがある。エルサレムからガザへの道を使徒言行録8章26節は「寂しい道」と記す。イスラエル人にとっては実際のところガザからエジプトまでの道の方が、より長く、より寂しく、より危険で困難が多い道のりではある。

使徒言行録8章で助祭フィリポによって洗礼を受けたエチオピアの高官はイザヤ書を朗読していたが、当時はユダヤ人かユダヤ教に改宗していた異邦人でなければ旧約聖書の預言書を読むことなどあり得なかった。シェバの女王がソロモン王を訪問した後、古代のイスラエルの宗教もエチオピアに伝わっていた。

イザヤ56章3節以下では異邦人や宦官もイスラエルの神の救いに与る日が来ると預言した。申命記23章は男性器に欠陥のある者が「主の会衆」に加わることはできないと定めたがイザヤは条件の緩和を預言し、それを受け使徒言行録の時代までにエチオピア人の宦官もエルサレムでの礼拝を認められていた。

主イエスはルカ11章29節以下で、ヨナの説教に悔い改めたニネベの人々と、ソロモンの知恵を聞くためにエルサレムを訪れたシェバの女王を引き合いに出されたが、この仰せには当然「あなたたち今の時代のイスラエル人は、ニネベの人々やシェバの女王にまさるものなのか」のニュアンスも含まれている。